・幼児教育とは、早く勉強を始めることではなく、子どもが人として育つための基礎をつくる時期に、どのような環境や関わり方が大切なのかを考えることです。
・教育を足し続けるだけではなく、子どもが自分で考え、動き出す余地を残す「引き算の育児」という考え方が大切だとされています。
・自由に遊び、試行錯誤し、自分で考える経験の積み重ねが、自分を信頼する力や未来を信じる力につながっていきます。
幼児教育とは何か
幼児教育という言葉を聞くと、多くの人は「早くから勉強をさせること」を思い浮かべるかもしれません。
英語教室や知育教材、プログラミング教室など、幼いころから様々な教育を受ける子どもも増えています。
しかし本来、幼児教育とは「勉強を早く始めること」ではありません。
子どもが人として育つための基礎をつくる時期に、どのような環境や関わり方が大切なのかを考えることが、幼児教育の本質です。
このテーマについて長年考えてきた人物の一人が、教育ブロック玩具LaQ(ラキュー)の企画開発に関わってきた嘉橘氏です。
嘉橘氏は約25年間にわたり、LaQという玩具を通して子どもの遊びと成長を観察してきました。
その経験の中で見えてきたのが、現代の子どもたちの環境と、幼児教育のあり方への疑問でした。
物質的に豊かで教育環境も整っている日本。
それにもかかわらず、子どもたちの中には
・無気力
・周囲の目を気にしすぎる
・自信が持てない
といった様子が見られることが少なくないといいます。
幼いころの子どもは本来、強い好奇心を持ち、興味のあることに夢中になる存在です。
何か面白いものを見つけると、それに向かって一直線に進んでいく。
ところが現代では、
「お行儀がよく周囲を気にする子ども」
が増えているように感じる場面もあるといいます。
この違いはどこから生まれているのでしょうか。
嘉橘氏は、その背景の一つに幼児期の育ち方があるのではないかと考えるようになりました。
LaQ開発者が見てきた子どもの姿
LaQは奈良県の企業であるヨシリツ株式会社が製造する造形ブロック玩具です。
もともとは1993年に発明された商品でした。
しかし発売当初、商品は決して順調とは言えませんでした。
開発には大きな投資が必要で、会社の経営も厳しい状況だったといいます。
その頃、嘉橘氏は公認会計士として監査法人に勤務していました。
安定した職業に就き、家族を支える立場として働き始めたばかりでした。
ところが1995年、実家の会社の経営が厳しい状況にあることを知り、LaQの事業に関わることになります。
当時の会社には多くのスタッフがいたわけではありません。
商品企画、ブランディング、販路開拓などを、ほぼ手探りで進める必要がありました。
その中で嘉橘氏が考え続けたのは、
LaQという玩具をどのような存在として世の中に届けるのか
ということでした。
単なる玩具として販売するのか。
それとも子どもの成長に関わる道具として位置づけるのか。
この問いを考える過程で、嘉橘氏は幼児教育や子どもの発達について多くの本を読み、専門家の考え方を学びました。
また、実際にLaQで遊ぶ子どもたちの姿を観察することで、
遊びが子どもの発達に与える影響についても考えるようになります。
興味深かったのは、LaQに夢中になる子どもたちの多くが3歳から10歳だったことです。
そして保護者の多くは
・創造力
・集中力
・考える力
といった教育効果を期待して玩具を購入していました。
この経験から嘉橘氏は、玩具や遊びが子どもの成長にとって重要な役割を持っていることを強く感じるようになったといいます。
世界で最も裕福な国の、世界で最も不安な若者
日本は、世界的に見ても生活水準の高い国です。
安全で、医療や教育制度も整っており、多くの子どもたちは物質的には恵まれた環境の中で育っています。
家庭には玩具があり、本もあり、学校教育も安定しています。
衣食住の面でも、日本の子どもたちは世界的に見れば非常に恵まれている環境にあるといえるでしょう。
しかし、その一方で、日本の若者に関する国際調査を見ると、少し気になる傾向が報告されています。
それは、
「将来に希望が持てない」
と答える若者の割合が、国際比較の中で比較的高いという点です。
日本の子どもたちは学力が低いわけではありません。
むしろ、国際学力調査では上位に入ることも多く、基礎的な学力水準は高い国といえます。
それにもかかわらず、
・将来に対する不安
・自分の可能性への疑問
・社会に対する閉塞感
といった感覚を持つ若者が少なくないことが、様々な調査で指摘されています。
この状況は、多くの教育関係者や研究者の間でも議論されてきました。
なぜ恵まれた環境の国で、希望を持てない若者が増えるのか。
どのような環境が子どもの自信を育てるのか。
こうした問いに対して、様々な立場からの研究や実践が行われています。
「夢が持てない若者」と、学校を作る若者
同じ若者の中でも、全く異なる行動を取る人たちがいることも興味深い点です。
日本では将来への不安を感じる若者が多いと言われる一方で、海外の教育支援活動に参加し、学校づくりに取り組む若者たちもいます。
例えばアジアやアフリカの地域では、教育環境が整っていない場所もあります。
そうした地域で、子どもたちのために学校を建てたり、教育活動を支援したりする日本の若者たちも存在しています。
困難な環境の中でも、自分の力で社会に関わろうとする若者たち。
一方で、恵まれた環境の中であっても、自分の将来に自信を持てずに悩む若者たち。
この違いはどこから生まれるのでしょうか。
嘉橘氏は、長年子どもたちの遊びや成長を観察してきた経験から、その背景の一つに幼児期の育ち方があるのではないかと考えるようになりました。
子どもが小さい頃にどのような環境で過ごし、どのような経験を積むのか。
その影響は思っている以上に大きいのではないかという視点です。
過熱する幼児教育と主体性の低下
現在、日本では幼児教育への関心が非常に高まっています。
英語教育。
知育教材。
プログラミング。
早期受験対策。
子どもが小さい頃から様々な教育機会を用意する家庭も珍しくありません。
もちろん、教育そのものが悪いわけではありません。
知識や経験を得ることは、子どもの成長にとって大切な要素です。
しかし、教育が過熱することで生まれる問題もあります。
その一つが、主体性の低下です。
子どもが自分で興味を持って何かを始める前に、大人が先に「やるべきこと」を用意してしまう。
すると子どもは
・指示を待つ
・与えられたことだけをする
・失敗を恐れる
といった行動を取りやすくなります。
つまり、自分で考えて動く力が育ちにくくなる可能性があります。
子どもが本来持っている好奇心や挑戦する気持ちが、大人の期待や計画によって弱まってしまうこともあるのです。
こうした状況を見て、嘉橘氏はある一つの考え方にたどり着きました。
それが
「引き算の育児」
という考え方です。
引き算の育児とは何か
嘉橘氏が提案している考え方の一つが
「引き算の育児」です。
これは、子どもに何かを与え続ける教育とは少し違う発想です。
現代の子育てでは、どうしても「足し算」が増えがちです。
習い事を増やす。
教材を増やす。
経験を増やす。
知識を増やす。
子どもにとって良いと思われるものを、できるだけ与えようとするのは自然なことです。
親としては、子どもが将来困らないように、できることはしてあげたいと思うものだからです。
しかし、子どもの生活に様々なものを足していくほど、
子どもが自分で考えたり動いたりする余白が少なくなってしまうことがあります。
引き算の育児とは、子どもが自分で考え、動き出す余地を残すことを大切にする考え方です。
大人がすべてを先回りして整えるのではなく、
子どもが試行錯誤できる環境を残しておく。
そうすることで、子どもの内側から生まれる好奇心や意欲が育つと考えられています。
足し算の育児と引き算の育児
足し算の育児とは、
子どもにとって良いと思われるものをどんどん加えていく育て方です。
例えば
・習い事を複数通わせる
・教育教材を多く与える
・知識を早く教える
といった方法です。
これらの取り組みにはメリットもあります。
様々な経験をすることで、子どもの世界が広がることもあるからです。
しかし、足し算ばかりになると、子どもが自分で考える機会が減ってしまうことがあります。
何をするか。
どう遊ぶか。
どう解決するか。
こうしたことを大人が決めてしまうと、
子どもは「指示を待つ存在」になってしまう可能性があります。
一方で引き算の育児では、
大人がすべてを整えすぎないことを意識します。
・自由に遊べる時間
・自分で選べる経験
・試行錯誤できる環境
こうした要素を残すことで、
子どもの主体性を育てようとする考え方です。
引き算の育児は放任主義なのか
ここで誤解されやすいのが、
引き算の育児は放任主義ではないという点です。
放任とは、大人が子どもに無関心で、
必要な関わりすら持たない状態を指します。
引き算の育児はそれとは全く違います。
むしろ、大人は子どもの様子をよく観察しながら、
必要なときに支える関わり方になります。
例えば
・子どもが困ったときに助ける
・安全を守る
・安心できる環境を整える
こうした役割は大人にとって重要です。
ただし、大人がすべてを決めてしまうのではなく、
子どもが自分で考える余地を残しておく。
このバランスが引き算の育児の大きなポイントになります。
お母さんの育児ストレスを引き算する
引き算の育児は、子どもだけでなく、
親の負担を減らすという意味もあります。
現代の子育てでは、親が多くの役割を背負っています。
・教育
・生活習慣
・習い事の管理
・将来への準備
子どものためと思って頑張るほど、
親の負担も増えていきます。
その結果、育児が大きなストレスになってしまうこともあります。
しかし子育ては、本来「完璧に管理すること」ではありません。
引き算の育児では、
親がすべてを背負い込まないことも大切にします。
少し余裕を持って子どもと向き合うことで、
親子の関係も穏やかなものになりやすいと考えられています。
親の期待を引き算する
子育ての中で、親の期待はとても自然なものです。
子どもが幸せになってほしい。
将来困らないように育ってほしい。
そう思うのは、どの親にとっても当たり前の感情でしょう。
しかし、その期待が強くなりすぎると、子どもにとって大きなプレッシャーになることがあります例えば
・良い学校に入ってほしい
・人より優れてほしい
・失敗しないでほしい
こうした思いが強くなるほど、子どもは
「期待に応えなければならない」
「失敗してはいけない」
という気持ちを抱きやすくなります。
もちろん、親の思いがすべて悪いわけではありません。
ただ、子どもが自分の人生を自分の足で歩いていくためには、
自分で選び、自分で決める経験が必要になります。
引き算の育児では、親の期待をすべて押し付けるのではなく、
子ども自身の興味や気持ちを尊重することを大切にします。
親が少し期待を手放すことで、
子どもは自分の意志で動くようになることもあるのです。
引き算の育児が育てる力
では、引き算の育児によって、子どもにはどのような力が育つのでしょうか。
嘉橘氏は長年子どもたちの遊びを見てきた経験から、
いくつかの大切な力が育つと考えています。
その中でも特に重要なのが、
自分を信頼する力です。
自分を信頼する力
子どもが何かに挑戦するとき、
最初からうまくいくことはほとんどありません。
失敗することもあります。
うまくできないこともあります。
しかし、その過程の中で
・自分でやってみる
・自分で考える
という経験を積み重ねることで、
子どもは少しずつ自信を持つようになります。
この自信は、誰かに評価されて生まれるものではありません。
自分で試し、
自分で工夫し、
自分で乗り越えた経験から生まれるものです。
その積み重ねが、
自分を信頼する力につながっていきます。
自分を好きになる力
もう一つ大切なのが、
自分を好きになる力です。
子どもが安心して遊び、挑戦できる環境の中では、
失敗も自然な経験として受け止められます。
すると子どもは
「うまくいかなくても大丈夫」
「またやってみよう」
と感じるようになります。
こうした経験を重ねることで、
子どもは自分自身を肯定的に受け止めるようになります。
自分を好きになる感覚は、
その後の人生の様々な場面で大きな支えになります。
自分の未来を信じる力
自分を信頼し、
自分を好きになることができると、
次に生まれるのが未来への希望です。
将来に対する不安は誰にでもあります。
しかし、自分の力を信じることができる人は
「きっと何とかなる」
「やってみよう」
と前に進むことができます。
こうした気持ちは、
幼いころの体験の中で少しずつ育っていきます。
自由に遊び、
試行錯誤し、
自分で考える経験。
その積み重ねが、
子どもの未来への確信につながっていくのです。
引き算の育児の先にあるもの
引き算の育児によって育つ力は、
子ども個人の成長だけにとどまりません。
自分を信頼し、
自分の存在を肯定できる子どもは、
やがて他者との関係の中でも安定した行動をとれるようになります。
自分に自信がないと、人は周囲を過度に恐れたり、逆に攻撃的になったりすることがあります。
しかし、自己信頼がある人は、
他者を必要以上に恐れたり敵視したりすることなく、
自然な形で人と関わることができるようになります。
そこから育っていくのが、
次の三つの力です。

他者を信頼する力
幼児期に安心できる環境の中で育った子どもは、
他者に対して基本的な信頼感を持ちやすいと言われています。
自分が尊重されてきた経験があると、
他人も尊重することができるようになるからです。

例えば
・友達と遊ぶ
・助け合う
・順番を守る
こうした日常の場面の中で、
子どもたちは少しずつ人との関係を学んでいきます。
そして、自分の価値が認められていると感じる子どもほど、
他人の価値も認めることができるようになります。
この感覚は、
学校生活だけでなく、
社会に出た後にも大きな意味を持つ力になります。
共感し、協力する力
人間は一人では生きていけません。
社会の中で生きていくためには、
他人と協力する力が必要です。
共感する力とは、
相手の気持ちを想像する力です。
例えば
・友達が悲しんでいる
・誰かが困っている
・仲間が頑張っている
そうした場面で、
相手の気持ちを感じ取り、
行動できる力です。
この力も幼いころの経験の中で育ちます。
自由に遊び、
友達と関わり、
ときにはけんかをしながら、
子どもたちは人との関係を学んでいきます。
大人がすべてを管理しすぎると、
こうした経験の機会が減ってしまうことがあります。
引き算の育児は、
子ども同士の関係が自然に生まれる環境を大切にする考え方でもあります。
社会のために行動する力
自分を信頼し、
他者を信頼できる人は、
やがて社会の中で役割を持つことにも前向きになります。
人の役に立つこと。
社会のために行動すること。
こうした行動は、
義務として押し付けられるものではなく、
内側から自然に生まれるものです。
幼いころから
・自分で考える
・自分で選ぶ
・自分で行動する
という経験を積んできた人は、
社会の中でも主体的に動くことができます。
そして、そのような人が増えることが、
社会全体をより良い方向に動かしていく力になるのではないかと考えられます。
具体的に何をすればいいのか
ここまで「引き算の育児」という考え方を紹介してきました。
しかし、実際の子育ての中では
「具体的に何をすればよいのか」
と疑問に思う方も多いでしょう。
引き算の育児は、
特別な教育方法ではありません。
むしろ、
子どもの成長にとって自然な環境を整えることが基本になります。
例えば
・自由に遊べる時間を確保する
・子どもの興味を尊重する
・失敗を否定しない
・すぐに答えを与えない
こうした環境の中で、
子どもは自分のペースで成長していきます。
また、玩具や絵本も重要な役割を持っています。
ブロック玩具は創造力を育て、
絵本は言葉や想像力、感情理解を深めます。
どちらも、
子どもが自分の世界を広げるための大切な道具です。
大人がすべてを教え込むのではなく、
子どもが自分で発見できる環境を用意すること。
それが引き算の育児の基本といえるでしょう。

おわりに
幼児教育という言葉を聞くと、
つい「何を教えるか」ということに意識が向きがちです。
どの教材を使うのか。
どの習い事を選ぶのか。
どんな知識を身につけるのか。
しかし、
子どもの成長にとって本当に大切なのは、
知識の量だけではありません。
自分で考える力。
挑戦する勇気。
失敗から学ぶ経験。
こうした力は、
子ども自身の体験の中で育っていきます。
現代の社会は情報も教育機会も豊富です。
だからこそ、
子どもに何かを足していくことは簡単になりました。
しかし時には、
与えすぎないこと。
整えすぎないこと。
つまり、
少し引き算をすることも大切なのかもしれません。
子どもが自分で世界を発見できる余白を残すこと。
それが幼児教育の中でとても大切な視点の一つといえるでしょう。
※本記事は嘉橘氏によるnote記事「幼児教育ってなんだろう?」を参考に、本サイト向けに再構成した解説記事です。




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